脾臓の血管肉腫は非常に悪性度の高い腫瘍です。
脾臓にできる腫瘍の45〜51%の割合で発生し、
大部分は中高齢に発生します。
好発犬種としてジャーマン・シェパード、
ゴールデン・レトリーバー、
ラブラドール・レトリーバーが
知られています。
転移部位として肝臓、大網、心臓などが知られています。
検査として、レントゲン検査、超音波検査が用いられます。
しかし、レントゲン検査、超音波検査、開腹時の肉眼所見で
診断をすることはできず、摘出して病理検査に出すことでしか
確定診断することはできません。
また術中術後の合併症として不整脈、
DIC(播種性血管内凝固)が起る非常に危険な腫瘍です。
治療法として外科的治療が第1選択となります。
G・レトリーバー 避妊メス 11歳齢
1週間ほど前から元気食欲がないとのことで
他院を受診されました。
(以降、手術写真などが出てきます。了解いただいたかたのみご覧下さい。)
他院でのレントゲン検査の結果、お腹の中に液体。
つまり腹水が溜まっている可能性が高いということで
精査を希望され、当院を紹介来院されました。
当院に来院されたときにはワンちゃんは
自分で立つこともできない位に衰弱し、お腹が張っていました。
当院で追加の血液検査、超音波検査を行いました。
検査の結果、重度の貧血と脾臓の腫瘤、
腹水貯留が見つかりました。
脾臓腫瘤の破裂による出血、ショックが起っていることが
予想されました。
腹部・心臓超音波検査の結果、
腫瘍の転移は認められませんでした。
手術適応と考え、
脾臓からの出血コントロール・腫瘤摘出のため緊急で
脾臓摘出術を実施しました。
お腹の中は予想通り脾臓からの出血で満たされていました。
脾臓につながる血管を探し、シーリングシステム
(これにより糸を体内に残さず血管を縛ることができます)
により結紮・切断しました。
写真は腫瘍から腹部脂肪を剥離しているところ。
そして破裂した脾臓を摘出しました。
摘出した脾臓。 破裂した部位に脂肪の癒着が見られます。
手術は予定通り終了し、術前の計画通り輸血を行いました。
術後の経過は良好で次の日からご飯を食べてくれました。
また次の日からは歩ける様になり、
術後4日で歩いて元気に退院できました。
病理検査結果は「脾臓血管肉腫」でした。
この腫瘍は転移率が非常に高いこともあり、
注意深い経過観察の必要な腫瘍です。
そのため、今後は飼い主さまと相談を行って
治療を行っていきます。
参考文献
犬の腫瘍 management the canine cancer patient
小動物腫瘍学の実際 small animal clinical oncology
村端